●さいたま市での熱中症救急搬送を分析(本紙学生記者)

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【編集局】気象が及ぼす人体の変調についての日本有数の研究機関である「日本生気象学会(所沢市)」による研究発表大会が、11月7日から9日にかけて公立鳥取環境大学で開催され、本紙の金雨薇(きんうび)留学生記者(埼玉大学大学院理工学研究科)が、さいたま市における熱中症患者の救急搬送数の分析結果を発表しました。

 金雨薇留学生記者は「この研究によって、熱中症発症者の早期救急搬送や救急体制の確立、熱中症の予防対策に役立つことができれば、留学して生活しているさいたま市への恩返しとなります。特に、さいたま市が推進しているWHO(世界保健機関)が推奨する「セーフコミュニティ」の「子どもの安全対策」や「高齢者の安全対策」の参考にして頂ければうれしいです。」と語っています。以下、発表内容です。

一般線形モデル(GLM)は、1つ以上の予測変数と1つの連続応答変数間の統計的関係を表すために、最小二乗回帰手法を使って計算を実行する分散分析(ANOVA)手順です。
今年の日本の夏は、これまでに経験したことがない最も暑い夏になりました。このグラフはさいたま市消防局救急課がまとめた熱中症搬送者数の推移を示しています。今年は初めて1000人以上の搬送者数となりました。
今年は、まだ夏の暑さに慣れない6月中旬に30人規模の搬送者が発生しました。また、8月5日には49件発生しました。
近年、様々な予測または再現手法が提案されています。まず、名古屋工業大学平田教授らによる日ごとの熱中症搬送者数予測では、深層学習モデルを用いてランダムフォレストモデルより優位であることを示しました。Ikeda and Kusaka (2021) では、2010年から2019年までの東京都の熱中症搬送データを用いて、11種類の説明変数セットと5つの予測手法を比較し、最も高精度だったのは気象要素と暑熱順化を組み合わせた一般化加法モデル(GAM)でああることを示しました。以上の学習データは2020年以前であり、本研究では今年のような猛暑により合致するモデルがあるかを探索します。
本研究で着目したモデルは、負の二項回帰モデルで、WBGT値に加えて、急激な暑熱刺激により搬送数が増加することや、暑熱順化の進行によって搬送数が減少することを加味したものです。その比較対象を、LightGBM、CatBoost、GAM、CNNとしました。それぞれの特徴はスライドに示したとおりです。
日々の気象データがモデルに入力されると、
システムは先ほどの3つの指標 ― wbgt_streak、surge、early_flag ― をもとに、
その日の順化状態を自動的に判定します。

まず、順化進行中 の場合は、暑さに慣れてきており、搬送リスクが低下している状態です。
次に、順化崩壊 は、急な高温上昇によって慣れが崩れ、短期間にリスクが上昇している状態を示します。
最後に、順化不足(初期) は、梅雨明けや初夏期など、まだ暑さに慣れていない段階で、リスクが高い状態を意味します。

このようにして、日々の気象変化に応じた「慣れ」「崩壊」「不足」をリアルタイムで把握できます。
以上が、順化状態を自動的に判定する仕組みです。
ここでは、使ったデータと変数について説明します。
説明変数は、WBGT(日積算・最大・最小・差分)、気温(最高・最低)、湿度(日平均)、それに日照時間や大気圧などです。
これらの気象要素を組み合わせることで、熱中症搬送件数の変動をより詳細に捉えることを目的としています。
目的変数は、「さいたま市の熱中症搬送件数(日単位)」です。
学習データは2010年から2024年までで、たとえば2010〜2017年で学習して2018年を再現する、という形で検証しました。
特に、2018年、2022年、2025年は、過去と比較して異常高温が多く見られ、それに伴い1日の搬送者数も最大で約50人に達しました,このような特徴から、これらの年は“異常年”と位置づけられます。
これらの年を対象に再現性を評価することで、モデルの汎用性や順化考慮の効果を確認しています。
次に、この順化モデルを実際に搬送件数の再現モデルに組み込み、2025年の搬送状況をどのように再現できるかを検証しました。
まず上の図は、順化を考慮していないGLMの結果です。6月中旬に気温が上昇した時期では、実際の搬送者数に比べて予測値が低く、
モデルが初期の暑さへの反応を十分に再現できていません。一方、下の図は順化を考慮したGLMです。
同じく6月中旬の立ち上がりの部分で、実測の搬送人数に近い形で再現できており、初期の暑熱への慣れや順化不足が適切に反映されていることが分かります。
続いて、他のモデルでの再現結果を示します。
ここでは、LightGBM、CatBoost、GAM、CNN の4つのモデルを用いて2025年の搬送件数を再現した結果を示しています。
これらのモデルも波峰の形状自体は再現できていますが、いずれも大量の搬送時に低く見積もられました。
この実験を行う過程で2025のような温度異常年ではGLMモデルの方がより良い再現性を示しております。
この結果を検証するために、2025年と同じように異常高温によって搬送者数が増加した2018年と2022年についても、同様の再現実験を行いました。
これは2022年の結果でGLMはこの日の搬送者数を非常によく再現できています。
異常高温による急激な増加を正確にとらえており、実測値に最も近い結果となりました。
GLM以外のモデルには共通した特徴があります。7月の気温が最も高い時期に、実際の搬送者数を正確に再現できず、予測値が全体的に低くなっています。
次に、2018年についても同様の傾向が見られることが分かります。GLMでは日々の搬送者数再現できています。
他のモデル7月ぐらい正確に再現できません。
今後の展望としては、まず一つ目に、他都市での検証を行い、地域による違いを確認する予定です。
二つ目に、重症度別の再現、つまり軽症・中等症・重症・死亡に分けてモデルを適用し、より適切な医療資源の配分につなげることを目指します。
発表が終わって、ほっとひと息
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この記事を書いた人

水野 臣次のアバター 水野 臣次 編集局長

趣味はさいたま市、ペットはヌゥ。
明るく楽しいオモシロさいたま市を、みんなで作りたいヌゥ!

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