★【多文化共生社会への一歩】クルド人女性ってどんな生活をしているの?

川口市を中心に住むクルド人が、SNS等で注目され、埼玉県が多文化共生社会において未曾有の事態に置かれています。グローバル化、少子化の中で在日外国人は年々増加し、在日外国人との共生はもはや当たり前の時代になってきました。

その中で、クルド人との多文化共生課題は全国から注目が集まり、様々な情報が飛び交っていますが、今回は、「クルド人」という代名詞で見るのではなく、「隣に住んでいる●●さん」という個人の人となりを理解できるよう、市の国際イベントなどで積極的に活動されているクルド人女性を取材しました。

ジヤン・ジンさん(仮名。写真中央、35歳)
一般社団法人日本クルド文化協会会員。一児の母。クルド文化発信のため、川口市国際交流協会や草加市国際交流協会主催の国際イベントでクルド民族舞踊の披露や、川口市内のクルド料理教室の講師を務める。現在、難民申請中。

◆ 来日と仮放免

私は、19年前、16歳のときに既に日本で働いていた兄を頼って来日しました。当時は、ビザをもらえたため、トルコと日本を行き来しながら日本の工場でアルバイトをして生計を立てていました。現在は、難民申請を提出しつつ、仮放免の身分での生活が続いています。私は、仮放免で働くことはできないため、ビザを保有している親戚からの援助や、日本語に慣れていないクルド人の通訳をしてお礼をいただくなどしてなんとか生計を立てている状況です。

◆ 女性の生活の楽しみ

私たちクルド人女性の中には、働きに出ている人もいますが、買い物や通院など必要な用事以外はあまり外に出ないという人が多いです。しかし、宗教的に外出が好まれないというのではなく、単純に家で過ごすことが好きで、家事を完璧にしようとしているうちに気づけばずっと家で過ごしていた、という感じです。

そのため、友人と会う際も、カフェには行かず、誰かの家に遊びに行くことがほとんどです。このような友人が集まるお茶会では、月に1回、参加者がそれぞれお小遣いを持ち寄り、毎月順番にプレゼントし合う等の楽しみもあります。これはクルド人女性がお小遣いをもらえる貴重な機会であり、昔からのクルド女性の慣習でもあります。

そのほか、10人位を集めてヨガをしたり、友人に頼まれてパーティ料理やケーキを焼いたり、オンラインでトルコ・イラン地域の伝統的なバグラマという弦楽器を練習したり、日本語教室で勉強したりしています。日本語教室では、クルド人の親向けに英検や北辰テストなどを子どもに受けさせるよう指導もあり、子どもの進路についての情報を入手できる貴重な場でもあります。

クルドのおかしレワ二(左)とテナシール(右)

◆ 宗教と義務教育

私たちは、宗教としてはイスラム教ですが、戒律に対してはかなり寛容であり、礼拝も断食もできる範囲で行えば良い、という柔軟な考えの人が多いです。そのため、子どもたちが日本での生活に慣れるよう、ハラルフードや礼拝よりも学校給食や授業を優先してほしいと思っている母親が大半です。最近来日した人の中には戒律を厳しく守り、子どもにもハラルフードのお弁当を持たせる家庭もあるようですが、私のような滞在歴が長いクルド人の間ではあまり聞いたことがありません。

また、クルド人が日本に移住し始めた当初は、「いつか母国に帰るかもしれない」という思いもあったため、子どもを学校に通わせないクルド人の親もいましたが、今は日本での生活が落ち着きつつあり、日本の教育を受けた世代が多くなってきました。そのため、同じクルド人でも、「義務教育を受けたクルド人」と「義務教育を受けていないクルド人」との間で、生活の価値観や日本社会への順応レベルに差ができ始めているように感じます。

◆ 歩み寄る努力をしている人もいると知ってほしい

クルド人の中には、日本のマナーを全員で守ろうとして、滞在歴の長いクルド人が来日して間もないクルド人に暮らしのルールを教えたり、積極的に町内会の活動に参加したりするなど、社会に溶け込もうと努力している人もいます。これらの努力の甲斐もあって、最近では、病院がクルド語に対応してくれるようになったり、公園で子どもを遊ばせていると、同じ子連れの日本人の母親に話しかけられるなど、少しずつ私たちを受け入れてくれていることを実感しています。

しかし、中にはSNSで取り上げられるようなマナーの悪いクルド人もおり、特に病院前での騒乱や注意しても直らない違法駐車や危険運転については、彼らのせいで日本の生活に順応しようと努力するクルド人を含め全員が危険な人物だと認識されてしまうため、私たちも彼らに憤っています。彼らが原因でクルド人全体が批判されているのをSNSで見ているうちに、私は心が疲弊し、「日本人はみんな私のことが嫌いなんだ!」と思い込み、人の目が怖くて外出できなくなってしまった時期もありました。

多文化共生の実現は、私たちクルド人が日本のルールを守ることも大事ですが、その上で、日本人の皆さんが、私たち外国人を理解することも必要です。SNSでクルド人全体が嫌われてしまっているような印象ですが、個人を名前で認識し、その人はどのような人なのかをちゃんと見てほしいです。

◆ 私が思う多文化共生社会

クルド人との多文化共生において、クルド民族の文化の理解と交流の促進を目指す一般社団法人日本クルド文化協会(本部:埼玉県川口市)は、日本人とクルド人が平和に共生できるようSNSで情報発信をしていますが、協会からの発信はどうしても一方的なものになってしまい、根本的な共生課題の解決にはつながっていません。私は、多文化共生とは、人と人との直接のコミュニケーションの中で生まれるものだと思っています。例えば、学校で子どもたちが友達を名前で呼び合うことや、保育園でママ友として同じ子育ての悩みを共有することの中で、国籍、価値観や外見は違っても「同じところもある」と発見し合うことが真のコミュニケーションであり、多文化共生を作る大事なことではないでしょうか。

◆ 私にできること

クルド人女性は表に出て活動する機会が少ないため、私は、日本クルド文化協会主催のイベントや、市の国際交流協会主催のイベントのほか、クルド料理教室などの機会を使ってクルドの文化を発信する活動をしています。これらのイベントは、参加者と交流の中で私たちクルド人を理解してもらう貴重な機会です。今後も、私たちの生の声を届けられるよう、活動を続けていきたいと思っています。

県内の大学でクルド文化についてスピーチする様子
今年のクルドの新年祭「ネウロズ」の様子
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この記事を書いた人

川田朱里のアバター 川田朱里 県民公論 国際担当

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